「老板(ラオバン)※中国語で「旦那、店主」などの意」と愛情を持って呼ばれる梁氏は、中国東北部のチチハル出身。冬にはマイナス20℃を下回るほど寒くなる土地だという。この地では「肉」と言えば羊というくらい、羊肉に馴染みがある。東洋医学の思想では、羊肉は体を温めると言われている。中国料理のなかでも羊肉を多用する東北料理の背景には、その寒さがあるのだろう。料理はもちろんのこと、羊の解体もできる梁氏、実は書や絵にも通じており、店内の壁に並ぶ筆文字のメニューは直筆のものだったりするそうだ。
梁氏がオーナーを務める「神田味坊」は、中国・東北料理が地元感そのまま味わえるとの評判で、今のように羊肉がブームになる前から羊好きの間では「聖地」として賑わっていた。ここでは羊肉の串やクミン炒め、塊肉の塩茹で、おやき、チャーハン、火鍋など、昔から変わらない羊肉メニューが並ぶ。お店で生地から作られているモチモチの餃子の皮や麺で、羊肉がさらに美味しくいただける。一皿の料理も大陸風で多めなので、何人かで誘い合って飲みに行くのがいいかもしれない。何より、本場さながらの料理をワイワイがやがやした雰囲気の中で味わうのが楽しい。
神田のほかに、御徒町には羊肉を専門に扱う「羊香(ヤンシャン)味坊」がある。店名のとおり、こんなに種類があるのか! と思うくらい羊肉料理がメニューに並ぶ。こちらは一人でも二人でも、大人数でも使い勝手の良い雰囲気だ。
▲同じくラムバサダーの福田シェフと、伝統を守りつつも様々なコラボに取り組むのも梁氏の特徴。
同じく御徒町には一人でも立ち寄れる立ち飲みの「老酒舗(ロウシュホ)」、三軒茶屋には四川料理よりも辛いと言われる湖南料理の「香辣里(シャンラーリー)」と、それぞれコンセプトの違うお店を各地に展開。それぞれ料理の内容も雰囲気も異なるが、いずれの店も味だけでなく居心地の良さは折り紙付きだ。
お店でばったり梁氏に会うと、「よく来たね!」とニコニコと大きな手を差し出してくれる。梁氏のこの笑顔に心奪われている人も少なくないのではないだろうか。
梁 宝璋(リョウ・ホウショウ)
中華人民共和国・黒竜江省・チチハル出身。1995年に来日。「羊料理を日本に広めたい」という想いから、JR神田駅東口ガード下に庶民的な中国東北料理店「味坊」を2000年にオープン。以来、多くのメディアからの取材を受けるなど予約の取りづらい人気店に。料理は日本風にアレンジせず故郷の家庭の味をそのまま守っている。