羊と羊肉の歴史1・日本渡来編その1

■はじめに

羊を食べ始めて40年以上、羊活動を始めて10年以上。私の元には多くの情報が集まります。羊関係者、羊飼い、肉屋さん、インポーターさん、学者さん、消費者など多くの人から聞いた話が頭の中に詰まっています。それにニュースやWEBの情報などが私の中にたまっており、頭の中身を整理して記載しております。

素人のまとめなので事実誤認など入り込んでる可能性があります。覚えているけど引用元を忘れてしまっている事もあります。細かい所はこだわらず、羊肉の歴史を流れで理解してもらいたいとの思いから、まとめさせていただきました。プロの方や専門家の方は温かい目で見ていただければと思います。

■羊の故郷はどこなんだろう?

現代人が羊と言われて想像するモコモコの羊「メリノ」や、ひつじのショーンのモデル「サフォーク」などは、もともと野生にはいない生き物。紀元前7000年頃古代メソポタミア付近(今で言うシリアやレバノンあたり)で、コルシカ島やイラン・小アジアなどの山岳地帯に生息していたムフロンなど羊の原種となる生き物を家畜化・交配することにより生まれました。この辺り諸説あるようですが、羊の故郷は大体このあたりだそうです。そしてその羊は毛も肉も余すところなく利用できることから、あっという間に世界に広がりました。

■そして、日本に羊が来たのは599年!

では、日本に羊が初お目見えしたのはいつか?と言うと、西暦599年。なんとあの有名な日本書紀に「推古七年(西暦599年)の秋9月の癸亥の朔に、百済が駱駝一匹・驢(ロバ)一匹・羊二頭、白い雉一羽をたてまつった。」と記述があります。

調べたところ、それ以前には遺跡よりの動物遺体の出土事例もなく、これまた有名な「魏志・倭人伝」にも「日本には羊はいない」と書かれているので、それまでの日本には羊がいなかったと考えるのが妥当です。追記ですが、中国では羊と山羊の記述の違いがあまりなく、もしかしたら伝来したものは山羊かもしれません。比較的近代の民国時代においても羊肉の消費量の中に山羊を含んでいる事例もありました。現代でも、四川省などでは「羊」と書いているのにヤギが出て来る場合があり、羊肉の種類の一つとしてヤギ肉を扱う場合があるので注意が必要。

ちなみに、ヤギと羊は・・・

ウシ科>ヤギ亜科>ヒツジ属>ヒツジ
ウシ科>ヤギ亜科>ヤギ属>ヤギ

と、近いですが別の種類です。

閑話休題

その後も調べて行くと、多くの文献に「贈り物として羊を献上」と書いてあったりしますが、その羊が家畜として日本に根づくことはありませんでした。高温多湿な気候が羊の生育に合わなかった気候的問題。仏教文化による肉食への忌避感。飼育技術がなかった事などが原因と考えられますが、もしかしたら文章に残ってないだけで、ある程度繁殖しその後途絶えていたのかもしれません。

どちらにせよ平安時代までの日本にとって、羊は偉い方への贈り物的な扱いだったため庶民の目に触れることはなかったのではないかと思います。扱いとしてはパンダなどのような「珍しい動物を送る」儀礼的な行為だったので。


▲アイスランドの羊飼育。品種も手法もほとんど1000年前のまま。

さて、次回は「日本で羊を飼い始めたのはいつ??」のあたりから話を再開したいと思いますので、お楽しみに。


■巻末付録 近代の羊肉の動き 年表

  • 1868年 明治維新以降明治政府は「綿羊飼養奨励」政策
  • 1894〜95年 日清戦争
  • 1904〜05年 日露戦
  • 1908年 月寒種牧場に於いて綿羊の飼養を始める 政府「綿羊100万頭計画」:熊本・北条・友部・月寒・滝川の5ヶ所に種羊牧場開設
  • 1914〜18年 第一次大戦
  • 1922年 政府が羊肉商に補助金交付
  • 1924年 東京・福岡・熊本・札幌の4食肉商を「指定食肉商」に
  • 1929年 世界恐慌勃発により計画中止
  • 1928~29年 農林省が全国で羊肉料理講習会を開催
  • 1930年 満州事変
  • 1936年 日豪紛争により豪州からの輸入停止。政府は満州での羊毛増産図る
  • 1939年 羊毛供出割り当開始
  • 1941〜45年 第2次世界大戦
  • 1950年 朝鮮戦争による羊毛需要の綿羊飼養熱低下
  • 1957年 食肉加工品の原料として使用。需要は10万頭/年に増加
  • 1960年 ジンギスカンとしての需要が始まる。国産羊肉生産量が過去最高の2,712トンを記録
  • 1962年 羊毛の輸入自由化により綿羊の飼養頭数は減少
  • 1977年 この頃から使用目的が羊毛生産から羊肉生産に転化
  •  
    提供:東洋肉店(URL:http://www.29notoyo.co.jp/

    ※参考資料など
    国立歴史民俗博物館研究部民族研究系の川村清志先生の公演時の小冊子、畜産技術協会のHP、また、魚柄仁之助さんの「刺し身とジンギスカン:捏造と熱望の日本食」、ジンギスカン応援隊、綿羊会館が以前に出し担当者さんからいただいた資料、Wikipediaの羊の項目、探検コムさん、近代食文化研究会さんなどを参考にしています。その他、各輸入商社さんや大使館などが出しているパンフレット情報などが参考になっています。古典解釈は小笠原強(専修大学文学部助教)先生にご協力いただきました。
    また、東洋肉店さん初め多くの方に内容を確認いただきました。その他、羊飼いさんから聞いた話、羊仲間たちからの知識、どこかで読んだ知識などがまとまっています。羊に関わる皆様の知識を素人が素人向けにまとめさせてもらいました。いろいろなお店の方との羊の雑談などもベースになっております。皆様ありがとうございました!

    この記事を書いた人

    ラムバサダー 菊池 一弘

    羊肉の消費者団体、羊齧協会創業者にして主席(代表)。
    羊肉料理を素人がおいしく楽しく食べられる環境作りを行うべく、多種多様な羊肉普及のためのイベントを行う。
    詳しいプロフィールはこちらから。

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