羊と羊肉の歴史4・今の第三次ブームとは何だ?需要が巻き起こす供給底上げ型羊肉ブーム


▲ジンギスカンなど以外の羊肉の食べ方も広がってきている。

もうブームとは言わないかもしれないぐらい定番化してますが、説明の便宜上敢えて「第三次ブーム」と言います。これは現代まで続いている流れで、立て付けが面白いブームです。だいたい2014年の年未からスタートし2020年の頭にかけて大きく発展しましたが、新型コロナウイルス感染症予防の活動自粛により一時足踏みしました。その後、コロナ期間の焼肉ブームなどにのり、今では更なる普及と新店舗の誕生などが発生しています。

基本、羊肉業界では積極的にメディア戦略を打っている大手企業はありません。今回「第三次」と呼ばれているブームは「企業→広告代理店→メディア→消費者」の流れが成立していません。お店やイベントのPRなどはたまにあるようですが、全体として予算を投下しているところは知る限り無いので、自然に消費者の中から発生したブームであるといえます。

•企業主導ではなく、消費者が羊肉に慣れて羊肉を食べるようになったことからはじまった(ジビエ、熟成肉、赤肉肉ブームなどで日本人の食肉の選択肢が広がったともいえる)
•スーパーでの取り扱いの増加
•グローバル化により様々な国の料理が食べられるようになった
•ジンギスカン以外の食べ方の普及
•ハレの日の食べ物として、ごちそうとしてのイメージの固定
•臭い硬い安いというイメージを持たない層の成人化
•チルドラムの普及
•輸入国の増加
•羊の扱いに慣れたシェフの増加
•大手飲食グループの参画

詳しく説明すると・・・消費者が羊肉を食べる機会が増える(上記のポイント参照)→お店側がそれに反応し羊を扱う店がジワリと増える→それに注目しメディアなどが取り上げるようになる→それを見て企業などが反応しだす→消費者ももちろん反応しだす→スーパーなども注目し取り扱いが増える(2015年にある流通グループが羊の売り場を2倍に増やすとリリースを出してから量販業界は加速)→消費者が目にする機会が益々増える。輸入解禁になった各国がこの流れを見て日本へ羊肉をさらに売り込み始める。メディアがそれを取り上げる→それを見て消費者やお店が益々興味を持つ・・・という流れが同時多発的に起き、一言で「これが原因」とはいいにくい。

PRしたから広まった的なことではない、質実剛健なブームとなっています。認知が上がりじわりと広まった一連の流れを、わかりやすく「ブーム」とつけているだけ、ともいえます。

今までの長い間、業界の各場所で羊愛(本当に、羊業界は愛が深い人が多い)を語る人たちの努力がここに来て一気に花開いた形です。現在は、コロナの影響が色濃く残り、食品の高騰に巻き込まれて羊肉も高騰し、輸入量などは足踏み状態ですが、販売価格で言うと伸びを見せています。

また、実感としても5年ぐらい前までは「羊の普及活動をやっている」と話すと、珍妙な事をやっているな・・・と思われていましたが、現在は「美味しいお店はどこですか?」と聞かれることが多くなっています。これを見ても隔世の感があります。

ちなみに、輸入国の増加は2017年にフランス産の解禁から始まり、アメリカ、ウエールズ、アルゼンチンと輸入国が増加しました。それは、日本では羊肉は海外から入れるものという前提があり(農業協定などの国際交渉の際に気軽に輸入を認めるから関税0%なのです)、その背景には、日本国内での羊農家の数も少なく、輸入解禁になっても問題にならないというのもあるのかと感じています。

■羊肉という“素材”がブームになるという珍しいパターン。

▲取り扱う部位も劇的に増え消費者の選択肢も思いっきり広がった。

このブームの面白いところは、味や料理ではなく「素材」がブームになっている所です。第二次のブームが「ジンギスカン」という料理に絞られていたのとはかなり違います。なので、第二次は「ジンギスカン」という料理のブームです。そうすると、無理にまとめていますが第一次は「ジンギスカンの認知拡大」、第二次は「ジンギスカンブーム」なので、1次と2次と3次には関連性がない・・・とも言えなくはないのです。

普通ブームとは料理や味が一般的でわかりやすいのです。タピオカミルクティーやティラミスなどは非常に分かりやすかったと思います。素材であり肉の種類単体のブームは今までなかったのではないでしょうか?

長くなりましたが、これが、今回のブームの特徴で消費者から自然発生的に広まったブームです。SNSの力などが大きく影響したことも見逃せません。
2023年の流れとしては、新しい羊のお店がどんどん出てきているという事と、羊押しだけが売りで、味やそのほかが後回しのお店は淘汰されてきている事。チェーン店などでの取り扱いの増加と、高級化などがあげられます。

■次回は・・・
長い回になってしまいましたがいよいよ次回がおそらく最終回!第三次ブームのその後という事で、今の羊肉の流れをまとめています。コロナによって足踏みした羊肉の流れはどうなっているのか??乞うご期待です!

■巻末付録 近代の羊肉の動き 年表

  • 1868年 明治維新以降明治政府は「綿羊飼養奨励」政策
  • 1894〜95年 日清戦争
  • 1904〜05年 日露戦
  • 1908年 月寒種牧場に於いて綿羊の飼養を始める 政府「綿羊100万頭計画」:熊本・北条・友部・月寒・滝川の5ヶ所に種羊牧場開設
  • 1914〜18年 第一次大戦
  • 1922年 政府が羊肉商に補助金交付
  • 1924年 東京・福岡・熊本・札幌の4食肉商を「指定食肉商」に
  • 1929年 世界恐慌勃発により計画中止
  • 1928~29年 農林省が全国で羊肉料理講習会を開催
  • 1930年 満州事変
  • 1936年 日豪紛争により豪州からの輸入停止。政府は満州での羊毛増産図る
  • 1939年 羊毛供出割り当開始
  • 1941〜45年 第2次世界大戦
  • 1950年 朝鮮戦争による羊毛需要の綿羊飼養熱低下
  • 1957年 食肉加工品の原料として使用。需要は10万頭/年に増加
  • 1960年 ジンギスカンとしての需要が始まる。国産羊肉生産量が過去最高の2,712トンを記録
  • 1962年 羊毛の輸入自由化により綿羊の飼養頭数は減少
  • 1977年 この頃から使用目的が羊毛生産から羊肉生産に転化
  • 提供:東洋肉店
    ※参考資料など
    国立歴史民俗博物館研究部民族研究系の川村清志先生の公演時の小冊子、畜産技術協会のHP、また、魚柄仁之助さんの「刺し身とジンギスカン:捏造と熱望の日本食」、MLA豪州食肉家畜生産者事業団ジンギスカン応援隊、綿羊会館が以前に出し担当者さんからいただいた資料、Wikipediaの羊の項目、探検コムさん、近代食文化研究会さんなどを参考にしています。
    その他、各輸入商社さんや大使館などが出しているパンフレット情報などが参考になっています。古典解釈は小笠原強(専修大学文学部助教)先生にご協力いただきました。また、東洋肉店さん初め多くの方に内容を確認いただきました。その他、羊飼いさんから聞いた話、羊仲間たちからの知識、どこかで読んだ知識などがまとまっています。羊に関わる皆様の知識を素人が、素人向けにまとめさせてもらいました。いろいろなお店の方との羊の雑談などもベースになっております。皆さまありがとうございました!

    この記事を書いた人

    ラムバサダー 菊池 一弘

    羊肉の消費者団体、羊齧協会創業者にして主席(代表)。
    羊肉料理を素人がおいしく楽しく食べられる環境作りを行うべく、多種多様な羊肉普及のためのイベントを行う。
    詳しいプロフィールはこちらから。

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