▲2022年11月羊フェスタ。2019年を2万人上回る多くの人が訪れた。
いよいよ、この連載も最終です。3次ブームと言われたコロナ前から、コロナを挟んだ今について解説していきます。今回は最後ということでやや長めですが最後までお付き合いを!
■珍しい食肉から、普通の食肉へなった羊
個人的に、ブームという一過性の物が終わり、普通に普及しだしている段階に入ったのがコロナ前。そしてコロナでも勢いはやまず、今は食の選択肢の一つとして緩やかに浸透している段階と考えています。今回はそのあたりを深堀していきます。
前段として、
2017年:2017年のイオンリテールの「第4の肉「ラム肉」売場を2~3倍に拡大」リリース。量販での取り扱いが増え始める。
2019年:『羊料理世界のレシピ135品と焼く技術、さばく技術、解体』(柴田書店)
『家庭で作るおいしい羊肉料理』(講談社)発売。
2019年~20年:サイゼリヤのラム肉。全国的に販売されたアロスティチーニ(羊串)が爆発的に売れる。(今ではグランドメニューへ)
の流れがありました。
■「羊肉はクセが強いから日本人はあまり食べない」はすでに過去
まず見ていただきたいのは最新のデータ。2023年1月24日にホットペッパー総研より下記のリリースが流れました。「羊肉(ラム・マトンなど)は好きですか?」の答えに、約半数の方が「好き」と答えました。食べたことのない人や苦手な人が多いのが羊肉と思われていましたが、その常識が覆りつつあります。これは一般化してきたことを表す数字となるかと思います。
▲羊肉は「ブーム」から「身近な存在」に。ジンギスカンだけじゃない!好きな羊肉料理ランキング発表
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001859.000011414.html
■羊フェスタ2022の参加者がコロナ前を大きく上回る
そして、その流れをリアルでも感じる機会がありました。羊齧協会主催の年に1度の羊肉の祭典「羊フェスタ2022(11月開催)」では、コロナ前と大きな変化がありました。一つは参加客が3万名から5万名へと大幅に増加、そしてアンケートの結果20代から30代の参加が約6割と若年層が多く集まるお祭りとなったことです。コロナで羊に対する興味は薄れるどころか、若年層を中心とし、「人が集まる食肉」として注目をさらに集めています。
これは、かつてのブームなどにより、羊肉=臭い硬い安い イメージを持つ中高年と違い、若年層は羊肉に対するネガティブな固定概念が無いことが要因と考えられます。
▲事前登録者、来場者のアンケート。回答3302件。
■関西、郊外へのジンギスカンの波及
コロナ期の特徴として、換気が良い焼肉店の増加があげられます。その流れもあり、関西で新規の羊肉を扱う店舗がコロナ前よりも増加。こちら、羊肉に親しみのない関西での羊肉の認知が高まったことも合わせて表します。また、特に関東圏なのですが、中心部ではなく郊外の駅前などにジンギスカン店の出店が増えています。以前は首都圏中心部に多く「会社帰りなどに食べて来るもの」だったものが、地元で家族や友達と食べる人が増え、外で食べるものから、地元でも食べるものへと変わったようです。(もしかしたら、店が出来て皆行くようになったかもしれません)
■味付ジンギスカンの見直し機運
ジンギスカングランプリが2022年開催され、70商品が集まりました。2023年も開催予定で味付ジンギスカンが「一部の地域の食べ物」から、広く受け入れられる食べ物となりそうです。スーパーで羊肉売ってるけどどう食べたら?の答えの一つが味付ジンギスカンなのかもしれないと個人的には思っています。
■サスティナブルで、取り扱いやすい家畜としての羊
羊は、肉、骨、毛、皮、血液に至るまで、利用できる家畜です。元はヒズメ以外捨てるところはないと言われていましたが、今では中華料理店で豚足ならぬ「羊足」を出す店も出てきて、本当に捨てるところがない家畜となりました。また、主に草を餌として育つ羊は、草を食肉に変えることができる家畜でもあるのです。
また、小柄な羊は取り扱いがその他の家畜より楽なので、女性や高齢者などでも飼育できるということで、過疎化が進む中山間エリアで他の畜種に代わる家畜として注目を集めています。ここまでは、良い情報ですが、下記のようなマイナス事項もありました。
■MEATショック、途上国の富裕化により羊肉不足。価格が上がる。
コロナで物流が止まり、世界の食肉工場の出稼ぎ作業員が帰国し、羊はいても食肉化できない状況が続いていました。その影響はまだ続いており、羊肉はいまだに品薄な場合があるそうです。これは途上国の所得が増え、羊肉の需要が高まっていることと合わせて、羊肉不足、羊価格の高騰につながっています。今はやや落ち着いてきていますが、以前と比べてまだ高い状況が続いており、この流れはこのまま続くと多くの人が見ております。
▲オーストラリアの羊農家。
■羊押しのお店の淘汰
羊のお店の増加と同時に、羊肉の珍しさを売りとしていた店や、競争力のない店などの淘汰が始まっています。羊のお店が増えたことにより、羊好きが色々な店に行くようになったこと。また、羊好き以外の層は「羊云々よりもおいしく良い店」を求めており、羊だけで他のメニューが少ないお店などは苦戦する場合が出てきています。ここ数か月で、かつて羊好きが必ず名前を挙げた羊好きの間の有名店が相次いで閉店し、みんなが求めるお店の変化をひしひしと感じています。
■まとめ
日本の羊肉は「もともと日本になかった」ということもあり、伝統的な料理などもなく、その他の食材と違い国の都合や企業の都合などに振り回され続けてきた食材でした。羊が本格的に飼われ始めた明治初期から150年近くたち、色々な物に振り回されていた羊肉が、羊好きな人達の力で一般的な食肉になったことは非常に感慨深いです。
ここまでくるまでに尽力してきた多くの先輩たちの努力に敬意を表し、この一連のコラムの〆の言葉とさせていただきます。後、日本人と羊の関係はどうなっていくのか??これからの歴史は我らみんなで作っていくことになるのでしょう。
■あとがき
かなり長い内容になりました。いろいろ書きましたが最初にお伝えした通り、私が触れてきた多くの情報をまとめたものであり、初めての人向けにざっくりまとめています。あくまで学術研究ではなく、軽いコラムとしてお読みいただければ幸いです。
この記事を書いた人
ラムバサダー 菊池 一弘
羊肉の消費者団体、羊齧協会創業者にして主席(代表)。
羊肉料理を素人がおいしく楽しく食べられる環境作りを行うべく、多種多様な羊肉普及のためのイベントを行う。
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